揺らぐ警察
〜組織“弱体化”を食い止められるか〜

http://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail02_3348_all.html

〈転載開始〉

教官
「敬礼!」
新人警察官
「お願いします!」
大阪府警察学校です。
今、新人警察官たちの教育方針を大きく変えようとしています。
教官
「我慢しろ、みんな痛いんやぞ。
自分だけ楽するんか?」
警察官としての責任を自覚するよう、これまで以上に厳しく指導しています。
教官
「おまえらは休日も祝日もずっと警察官。それを忘れるな。」
新人警察官
「はい!」
「どうも申し訳ありませんでした。」
背景にあるのは、社会人としての資質すら問われる若手警察官の不祥事の急増です。
モラルの低下を放置すれば、信頼が失墜する。警察は、危機感を強めています。
組織の根幹を揺るがしかねない事態も浮かび上がってきました。中核を担っている人材が現場の閉塞感を理由に辞めているのです。30代 元警察官
「窮屈になりすぎましたよね。何から何まで管理されちゃって。モチベーションが下がっちゃいますからね。」
揺らぐ警察。最前線からの報告です。
“警察官の自覚を” 密着 警察学校

先月(4月)9日。
大阪府警察学校で入校式が行われました。
新人警察官
「私どもは警察官を志し…。」
この春、採用されたのは高校や大学を卒業したばかりのおよそ600人。
現場に配属されるまで半年以上ここで、警察官としての基礎を身につけます。
教官
「敬礼!」
新人警察官
「お願いします!」
入校式が終わったあとの最初の講義。
教官
「正しくな、自分の行動は間違いじゃない。自分が正しくなかったら、人を正されへんからな。」
教官は講義の冒頭から警察官としての覚悟があるかどうか問いただしていきます。
教官
「今の時点でおらんか、帰りたいやつ。おったら帰っていいぞ。
入校式終わったけど、自分では無理や、できへんと思ったら帰ってもらっていい。おらんか、おらんか。」
新人警察官
「はい!」
教官「なら必死についてこいよ。」
新人警察官
「はい!」
急増する不祥事 失われるモラル

警察が危機感を強めているのは、若手警察官の間で以前は考えられなかった不祥事が急増しているからです。警察は、こうした不祥事の背景に若手のモラルの低下があると見ています。
警察を2年で辞めた20代の男性です。
20代 元警察官
「実務研修の時の写真ですね。」
配属先の交番には、仕事に前向きに取り組んでいる同僚はいなかったといいます。
20代 元警察官
「だらだらやってる感じでしたし、やりたい放題。」
自分自身も仕事と関係ないことに没頭することもあったといいます。
20代 元警察官
「(周りは)1日スポーツ新聞読んでる感じ。(自分も)トイレ行った時に、当時株式や投資にはまっていたので、トイレで見たりしていました。」
“警察官の自覚を” 密着 警察学校
新人警察官
「お疲れさまです。」
600人が入校した大阪府警察学校。今年(2013年)からは警察官としての自覚を持たせることを、最大の課題として指導を強化しています。学生気分が抜け切らない新人には、武道などで忍耐力を養わせます。教官
「我慢しろよ、そこで。みんな痛いんやぞ。自分だけ楽するんか?」
寮での生活も教育の一環です。
新人警察官
「ありがとうございました!」
集団生活を通して、警察官の職務には厳しい規律が必要で
あることを自覚させていきます。
新人警察官
「特にルール、規則が思っていた以上に厳しいものでした。どれだけ厳しいことを言われても、ついていくだけ。」
教官
「敬礼!」
新人警察官
「お願いします!」
大型連休を前にした4月下旬。
教官は、休みであっても常に警察官としての自覚を失わないよう厳しく指導していました。
教官
「みんな20歳超えてるから酒も飲む。
気分が大きくなって、べらべらしゃべったり、いらんことを言って、トラブルにまき込まれ
たり、そういうことも絶対ないように。おまえらもう休日も祝日もずっと警察官。
それを忘れるなよ。」
新人警察官
「はい!」
連休明け、入校式から1か月。600人いた新人警察官。すでに1割が辞めていました。
その理由の多くは、厳しい規律についていけないというものでした。

「4月26日で1名退職して、総員30人になりました。」
全国の警察は、今年から辞めていく新人をあえて引き止めないという方針を打ち出していま
す。たとえ欠員が出ても、熱意のある人材だけを組織に残したいというのです。
大阪府警察学校 木山繁副校⻑
「(警察学校に)入ってこれからどうするかを聞き、資質を見極めていく。少しでも倫理観の欠如が見られるような資質が見られたら、それは是正するなり、転職を勧めたりすることはある。」
適性をどう見極めるか 変わる警察官採用
学生
「おはようございます。」
さらに、大阪府警は今年から、採用方法を抜本的に見直しました。警察に入る前から、丁寧に適性を見極めようというのです。⺠間企業では一般的なエントリーシートを全国の警察で初めて導入。筆記試験中心の選考から、学生の熱意や人間性を重視するようにしました。
さらに、スポーツの経験なども評価の対象に加えました。大阪府警は、学生を対象にした説明会にも力を入れています。警察の仕事を知ってもらい、ミスマッチを防ごうとしています。
機動隊員
「人のためになりたい、その中でも命を救いたいというのが我々。」
警察官としての資質がある人材をどう確保し、育成していくのか。模索が続いています。揺らぐ警察 組織弱体化の危機
ゲスト 太田肇さん(同志社大学教授)
ゲスト 清水將裕記者(社会部)
●若手警察官の不祥事 資質によるものだという捉え方清水記者:採用してその1か月で10%辞めるというのは、組織にとってみれば、欠員が出るということですから、それはダメージなわけですけども、そこまでして、厳しく倫理観、訓練を、倫理観の植え付けをして、絞っていくと。
そこまでの危機感が出てるということだと思うんですね。
若手のモラルを欠く行為というのは、いろんな企業を含めて、各地であると思うんですけど
も、警察官というのは人を逮捕する権限、捜査する権限という、強い権限がある職業ですか
ら、やっぱりほかよりも厳しい目で見られる。
1人が何かすると、やっぱり全体のものとして捉えられてしまいますし、それから警察学校
を出てから、すぐにやっぱり現場に出るわけですから、現場に出てから何か不祥事を起こす
よりは、学校で資質を見極めるという、そういう流れになってきます。
ただ、その採用の方法というのは、今まで、じゃあどうしてそういう採用方法をもっと早く
からやってこなかったという話があるんですけど、やはり不祥事人事委員会というところ
が、権限を持っていて、なかなか警察官として本当に適正があるのかどうかという試験と
か、そこをはかる、なかなか手段がなかったということで、今その手段というか、変えよう
と、大阪以外でも、いろんな取り組みが始まっているというところです。
●若手警察官の不祥事 防止の取り組みを見て

太田教授:確かに、そういう不祥事を減らしたり、ミスをなくすということは大切ですけれども、それによる弊害というのもあると思うんですね。例えば、あのような厳しい訓練に耐えられる若者というのはごく一部ですし、仮にそのような訓練に耐えられなくても、警察官になって、貢献できるような人材というのはいるはずなんですね。特にこれから強い組織を作ろうと思うと、多様な人材、個性的な人材をそろえておかないと、変化に対応できませんので、そうした人材が入り口によって排除されるということは、やはり懸念材料だと思います。
(同じような人たちの集まった組織になるおそれを感じた?)そうですね。

なぜ証拠ねつ造? 元警部の告白去年(2012年)、懲戒処分を受けて退職した、50代
の元警部です。
強盗事件の現場で採取された証拠品をねつ造したとして有
罪判決を受けました。
50代 元警部
「勝手な判断なんですけれど、やってしまった。
この『タバコ』があれば、すべてうまくいくという具合に考えたんです。」
ねつ造したのはたばこの吸い殻でした。
警察署で、保管されていた吸い殻がなくなっていることに
気付いたのがきっかけでした。
犯人の特定につながる手がかり。
元警部は、紛失の事実を上司に報告せず、別の吸い殻を証
拠品に仕立て上げました。
なぜ、ねつ造してしまったのか。
元警部は、管理業務の負担が背景にあったと説明しました。
警察署の刑事課⻑だった元警部。
最近では、事件の捜査指揮に加え、署⻑・副署⻑に報告す
る事項が大幅に増えました。
捜査書類の決裁も自ら行い、署員の勤務管理や備品の保管
状況のチェックも頻繁に行わなければならなくなりまし
た。
証拠品の紛失が発覚すると、対応や報告に追われて仕事が回らなくなると考え、上司に言い
出せなかったといいます。
50代 元警部
「ほかにもいっぱい現実に(業務が)目の前にあるのに、全部なんでも(報告を)あげれ
ば、現実大変なことになるじゃないですか。
いわゆる管理関係ですかね。
その業務が多すぎますね。」
管理業務強化 硬直化する警察組織管理業務の増加はいつ始まったのか。
きっかけは14年前、不祥事の隠蔽や事件への不適切な対
応など、警察で組織ぐるみの不正が次々に明らかになった
ことでした。
小渕首相(当時)
「不祥事が相次いで起こっていることは、極めて遺憾であり激しい怒りを感じている。」
このとき、抜本的な改革を求められた警察。
強化したのは監察、つまり管理業務の徹底でした。
しかし、その後も不正経理問題などが相次いで発覚。
その結果、管理がさらに強化されました。
現場で協力者に会うとき、被害者の相談に応じるとき。
業務の細部にわたって逐一、報告と決裁が求められるよう
になったのです。
不祥事が起きるたびに管理業務は増加。
今では、同僚や友人と飲みに行くのにさえ、書類の提出と
上司の決裁が必要になってきています。
強まる閉塞感 中堅が辞めていく
将来の警察を支える世代の中には、管理業務の強化で閉塞感を感じ、辞めていく人も出てい
ます。
一昨年(2011年)、30代半ばで警察を退職した男性です。
第一線で捜査に従事し、将来の幹部候補として期待されていました。
30代 元警察官
「ちょっと窮屈になりすぎましたよね、上のほうから言う
ことが。
もう何から何まで管理されちゃって。
そしたらもうロボットみたいになっちゃっていましたよ
ね、警察官がね。」
内向きの論理が優先され、保身に走る上司が増えていったという男性。
15年間勤めた警察組織の限界を感じ、⺠間企業に転職しました。
30代 元警察官「(上司は)泥棒捕まえろとか悪い人間を捕まえないといけないという話ではなくて、事故
(不祥事)防止ばかり。
毎日がんばって命がけでやって、なんだろう、ばかみたい、自分が情けなくなっちゃう。
やっぱりモチベーションが下がっちゃいますからね。」
揺らぐ警察 どう立て直すか
管理業務の強化で、組織にひずみが生じているのではないか。
警察庁は、これまでの取り組みを検証し、改善を進めたいとしています。
警察庁 永井達也人事課⻑
「業務管理をしっかりやるという事は、たいへん重要なこ
とだと思います。
問題はそのやり方だと思いますけれども、業務管理のやり
方を間違えて、現場が萎縮してしまうとか、業務報告のあ
り方ですとか決裁のあり方とか、そういったものを見直す
ことによって、日々業務にあたって高い意欲と使命感を持って、働き続けられる職場環境を
作っていきたい。」
●管理の強化 組織に起こることは
太田教授:やはり管理強化というのは大事ですけれども、
これは本来の目的というより、やはり手段なんですね。
やはり本来の目的は、市⺠のためによい仕事をしてもらう
ということですから、ただ実際見てみますと、これは警察
に限らずに、市役所であるとか、あるいは小中学校だと
か、国立大学なんかでもそうですけど、手続きが大変煩雑
になって、それで忙殺されて、肝心な仕事ができなくなっているという声が、あちこちから
聞かれます。
また管理が厳しくなると、中にいる人は、肝心な仕事よりも上司の顔色を見て、そして評価
するために仕事をする。
そして、しかも減点評価の傾向がありますので、ミスをしないほうが何か挑戦してミスをす
るよりも、そのほうが結果的に、評価される、得だということで、受け身で、極端にいうと
何もしない、そういう人が評価される。
こういう現象が広がってきている。
特に警察のように、我々の財産や生命に関わっているわけですし、時にはもう体を張って仕
事をしてもらわないといけない、そこでそういう風潮が広がってきているというのは、ある
意味で大変危険な現象だと思います。
●同僚と飲みに行く そこにも上司の決裁が必要というのは太田教授:これはちょっと非常識ですね。
やはり度が過ぎていると思います。
やはり同僚と飲みに行ったり、あるいは先輩と、あるいは上司と飲みに行く中で、いろいろ
な技能が伝承されたり、あるいは横のチームワークが出来るわけですね。
特に、警察官というのは横のチームワーク、連帯、団結、これが絶対条件ですので、それが
薄れてしまうという弊害もあります。
●改革からの閉塞感 現場の警察官たちは
清水記者:確かに改革をしてきたことで、管理が強まっ
て、例えば捜査の第一線の刑事さんなんかに話を聞くと、
やっぱりそういう空気というのは、徐々に広がっていると
いうふうに感じます。
ただその改革自体は、それによって組織的な不正な行為で
すとか、そのお金の明瞭化というのは一定の成果は出たわ
けで、やり方をどうするかという問題だと思うんですね。
警察庁のほうでも不要な決裁ですとか、不要な報告ですよね、それをなるべくこれからは少
なくして、現場がどう動きやすいか、その監査をするにしても、不正を見つけるためだけに
監査をするんじゃなくて、現場はどういうふうに働きやすいかという、視点で監査を行うよ
うに、方向性を変えてきています。
その30代が辞めるという話なんですけれども、辞める数でいうと、20代が大体2,000
人近く、年間、全国で辞めていまして、30代でいうと300人ぐらいなんですけども、ま
だ数が少ないですね。
その辞める背景に、閉塞感というのが本当にあるのかどうか、そのあたりで、分析が必要だ
と思います。
●厳しい規律が求められる警察 組織の在り方とは
太田教授:まず、警察の組織というのは、どうしても、縦の階層、⻑い組織ですので、これ
をもっとフラットにして、そして権限委譲、つまり権限委譲も行われているんですけど、
トップの権限を管理職のところまで落とすんですけど、実際に仕事をするのは、現場の第一
線で仕事をする警察官ですから、そこに権限を下ろして、あるいは裁量権を与えて、自分の
判断と見識で、迅速に仕事ができる。
こういう体制にしていかないといけないと思いますね。
●働く意欲が高まるときとは
清水記者:最近ですと、東日本大震災のときに、全国各地から現場に応援に入ったわけです
ね。
その遺体の捜索ですとか、救助者を捜す作業というのは非常にきつい作業というのを不眠不
休でやったんですけども、そのときに確かに仕事はきついんだけども、周りからすごい感謝
されて、やりがいを感じたっていう警察官は非常に多くて、逆にいうと、そういうことがふ
だん、なかなか今、感じにくくなっているのかなと思いますけども。
例えばその第一線で、捜査の現場で働く人を、きちんと評価、見えない部分もくみ取って評価して、やりがいというのを、なるべく感じてもらえるようなシステムというのが、もう
ちょっと必要かなと思いますね。
●どういうときにやりがいを感じられるか
太田教授:私が調査してみますと、どんなときにモチベーションが上がったかというふうに
聞きますと、公務員の場合、周りから認められたり、評価されたり、感謝された、このこと
を挙げる人が、ほぼ半数いるんですね。
それだけ公務員は認められたい、評価されたいという気が強いです。
ですから、それを可能にするような仕組みを作る。
そうすると、モチベーションは上がります。
そしてもう1つ効果があるのは、モチベーションだけではなくて、認められると、誇り、プ
ライドが上がるわけですね。
つまり自分の仕事に誇りが持てるようになる。
誇りが持てるようになると、違反が減るということを裏付けた実証研究もあるんです。
ですから、このように、褒めたり認められたりする機会を与えるということは、結局、国⺠
や市⺠の利益にもつながってくるわけですので、しかも、今、いろいろ公務員に対するバッ
シングだとか、厳しい声もありますけど、大多数の国⺠は警察官を信頼し、そして感謝もし
ているわけですね。
そうした声を吸い上げて、本人にフィードバックする、こういう仕組み作りが大切だと思い
ますね。
(交番で地味な仕事をする人が評価される仕組みがあっても?)そのようにして、誇りを持
たせるということ、これが一番大事なことだと思います。

〈転載終了〉

 

 

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